大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和31年(ワ)135号 判決 1958年10月12日

原告 宮川亀勇

被告 北中清蔵

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

被告は原告に対し金十二万二百二十五円の支払をなせ

訴訟費用は被告の負担とする

旨の判決を求め、

その請求原因として、

原告は被告との間に昭和三十年十二月二日

イ  原告が同日以降昭和三十一年九月二十七日まで被告より同被告が訴外石毛正との共同経営にかゝる八光澱粉工場に於ける被告の代理人として出荷入荷経理使用人夫の雇傭解雇の協議等工場運営の職務権限を委任されて、その労務を提供し、

ロ  被告が原告の右労務に対し報酬として月給一ケ月金二万円勤務場所以外の勤務については車馬賃食事代を別途に支給する。

約旨で雇傭契約を締結し、

原告が同日以降昭和三十一年三月まで四ケ月間右約旨の労務に服し、その給料合計金八万円勤務場所以外に勤務したるに因り生じたる、車馬賃食事代等の立替金合計金八万二百二十五円総合計金十六万二百二十五円の債権を有することゝなつたが

昭和三十年十二月三十一日給料の内金 金一万円

昭和三十一年二月二十九日立替金の内金金三万円

計 金四万円

の支払を受けたから残金十二万二百二十五円の債権となつたのである。そこでこの金額の支払を求めるため本訴請求に及ぶ旨を述べ、被告の主張事実を否認し、

立証として、

甲第一、二、三号証を提出し

証人成瀬久外茂、同小池一郎、同浅川信男の各証言及び原告本人尋問の結果を援用した。

被告訴訟代理人は

主文第一項同旨の判決を求め、

その答弁として、

原告主張事実を否認し、

原被告間に原告主張の頃成立した契約は被告と訟外石毛正との間に発生した澱粉製造共同経営に関する紛争に当り被告が原告に対し右紛争にかゝる相手方の告訴その他紛争解決に関する法律事務一切を委任し、その報酬としてその解決まで一ケ月金二万円を支払い、その事務処理に伴う車馬賃、食事代の実費を別途に支払う旨の契約である。

従つて、右契約は弁護士法第七十二条に違反し無効であるから原告の本訴請求は失当であると述べ、

立証として、

証人北中清一の証言を援用し、

甲第一、二号証の成立を認め、第三号証は知らないと述べた。

理由

原告は原被告間に昭和三十年十二月二日雇傭契約が成立したと主張し、被告は委任契約が成立したと主張するから如何なる契約が成立したかにつき考察する。

成立に争なき甲第二号証に標目として「委任状」と記載し、その内容中被告が原告に「委任した共同事業の……澱粉工場の運営、出荷、入荷、経理、雇傭の協議実行の権限」と記されてあること、証人北中清一、同小池一郎、同成瀬久外茂(一部)、同浅川信男(一部)の各証言及び原告本人尋問の結果の一部並びに口頭弁論の全趣旨を綜合して検討し次のことが認められる。

被告と訴外石毛正とは昭和三十年九月頃八光農場に澱粉製造工場を設備し共同経営を以て発足したが同訴外人の使用人間下某が金額約十五万円相当の澱粉を東京に運んで売却した。同訴外人がその穴埋をするために被告に断ることもなく第一澱粉工場協同組合から金十万円を引き出したことに端を発し、紛議をかもし、同訴外人側で右工場の立入禁止の立札を立てたため、被告において工場に立入られず、金額数百万円をも投入した澱粉工場経営の実権を同訴外人に奪われ工場の運転は停止し、澱粉も売れない窮状に立到り、弁護士に依頼して解決しようと考えていたところ、会計を担当していた成瀬某から原告を紹介された。そこで、被告は弁護士に依らず法律に明るいという原告を信頼し、被告の代理人として弁護士に代つて相手方石毛正と交渉し紛争事件の円満解決を図るためその事務処理一切を委託し、これに伴う代理権限を委任し、その期間を昭和三十一年九月二十七日までとし、その報酬を月給二万円及び勤務場所以外の食事、車馬賃の実費を支払うことを定めその実費の立替を依頼しその旨の委任契約が成立したのである。

甲第二号証からは労務に服すること自体を目的としている趣旨がどこにも見えない。もとより、委任事務処理に伴う労務の提供が雇傭契約に伴う労務の提供と事実上一致する点があるとしても、契約が締結されるに至つた経過事情と結ばれた契約を全体的に観察するときは、右契約は被告が原告の法律的手腕力量に信頼して事務処理に対し原告の意見を加える自由裁量の範囲が広くかつ大きく、単なる労務と報酬とが対価的交換的に結びついているというが如き趣旨のものでないことが前記認定の証拠から十分に窺われるし、原告提出援用の全証拠資料を以てしても前記認定を覆えし原告主張の雇傭契約の成立を認めることができない。

そして、前記認定の委任契約に依れば贅言を用うるまでもなく弁護士法第七十二条の法律事務取扱の禁止事項を内容とすることが明かであるから、右契約は同法第七十七条によつて刑罰の制裁ある強行規定に反する契約である。従つて、公の秩序に反する法律行為に該当し当然無効の契約である。故に、原告の雇傭契約の存在を前提とする本訴請求は爾余の判断をまつまでもなく失当である。因に、食事車馬賃の立替の点も亦右無効なる契約に包括され全体として無効となるものと解したのであるが、仮に、右立替金のうち食事代車馬賃を除くその他の立替金が包括されないとしても原告が右立替金の如何なる部分が雇傭契約又は他の契約に伴う別途委任に基くものか或はまた、事務管理によるものか等その発生原因内容につきつまびらかに釈明しないところであるから主張責任を尽さないものである。故に、爾余の判断に及ぶまでもなく失当として棄却さるべきであるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 森松萬英)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例